2021年に入ってから日本人の読解力が様々な分野で取り上げられていて、情報を目にすることがあります。最近、『日本人の5割が5行の文が読解できない』こんなセンセーショナルなタイトルを目にしました。文の難易度はそれぞれで、一概に5行以上の文を理解できないというのには根拠があるのか?ないのか?気になるところです。早速、根拠となっているOECDのデータを紐解いてみました。
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『5行の文が読解できない』のソースは?
さて、『5行の文が読解できない』はどんなソースから報道されているのでしょうか?
元となるデータはOECD(経済協力開発機構)の生徒の学習到達度調査(PISA)から来ています。
では、根拠とされている
生徒の学習到達度調査(PISA)とは一体どんな調査なのでしょうか?
OECDの学習到達度調査(PISA)とは?
OECD(経済協力開発機構)の生徒の学習到達度調査(PISA)は、
義務教育修了段階の15歳児を対象に、
2000年から3年ごとに三つの分野から世界中の生徒の学習到達度の調査をしています。
調査内容は
・読解力
・数学的リテラシー
・科学的リテラシー
の3分野で実施(2018年調査は読解力が中心分野)
平均得点は経年比較可能な設計をされていて
前回2015年調査からコンピュータ使用型調査に移行しています。
日本は、高校1年相当学年が対象で、
2018年調査は、同年6~8月に実施されています。
本来ならば今年2021年が新しい調査をする年になっています。
しかし、2021年のOECD生徒の学習到達度調査「PISA」について、
OECD(経済協力開発機構)は、
新型コロナウイルス感染症の影響により、
2021年に実施予定のPISA2021を2022年に、
2024年実施予定のPISA2024を2025年に延期することを決定した。
調査対象は読解・数学・科学
学習到達度調査(PISA)の各分野の調査内容を簡単に説明します。
<読解力>
読解力調査は読解力全体及び
1.「情報を探し出す」
2.「理解する」
3,「評価し,熟考する」)
について,習熟度レベルを9 段階に分けて調査
<数学的リテラシー>
様々な文脈の中で数学的に定式化し,
数学を活用し,解釈する個人の能力を調査
この調査は
数学的に推論すること,数学的な概念・手順・事実・ツールを使って
事象を記述、説明し,予測することを含む
<科学的リテラシー>
「思慮深い市民として,科学的な考えを持ち,
科学に関連する諸問題に関与する能力」と定義付け
科学やテクノロジーに関する筋の通った議論に自ら進んで携わり,
科学的能力(コンピテンシー)として,
「現象を科学的に説明する」
「科学的探究を評価して計画する」
「データと証拠を科学的に解釈する」などの調査
日本が数学、科学に比べて読解力だけ劣っている不思議
2018年の調査で日本人のPISAの結果は
読解力だけが数学的、科学的リテラシーに比べて低評価です。
なぜ、数学的、科学的リテラシーに関しては
上位国にランキングされているのに
読解力だけが低評価なのでしょうか?
私が疑問に思ったのは
数学的、科学的リテラシーの結果は
知識を十分に活用して筋の通った議論ができると評価されています。
これは読解力がなければ到底、筋道の通った議論などできないわけです。
つまり、日本人は問いを理解して有効な議論ができるのです。
本当に日本人は読解力が衰えていると言えるのでしょうか?
日本の学生の読解力についての分析は?
PISAの結果を受けて
文部科学省 国立教育政策研究所から
読解力について次のような指摘がされています。
テキストから情報を探し出す問題や、
テキストの質と信ぴょう性を評価する問題において
◆読解力の自由記述形式の問題において、
自分の考えを他者に伝わるように根拠を示して説明することに、課題がある。
◆生徒質問調査から、
日本の生徒は「読書は、大好きな趣味の一つだ」と答える生徒の割合が
OECD平均より高いなど、読書を肯定的にとらえる傾向がある。
また、こうした生徒ほど読解力の得点が高い傾向にある。◆読解力は、
OECD平均より高得点のグループに位置するが、
前回より平均得点・順位が統計的に有意に低下。
長期トレンドとしては、統計的に有意な変化が見られない「平坦」タイプとOECDが分析。◆社会経済文化的背景の水準が低い生徒群ほど、
習熟度レベルの低い生徒の割合が多い傾向は、他のOECD加盟国と同様に見られた。
◆生徒のICTの活用状況については、
日本は、学校の授業での利用時間が短い。
また、学校外では多様な用途で利用しているものの、
チャットやゲームに偏っている傾向がある。
このように分析がされています。
さらに
・読書を肯定的に捉えている生徒は得点が高い!
・社会経済文化的背景の水準が低い生徒は得点が低い!
・学校内でのICT活用状況は短いのに学校外で長時間利用が顕著!
このように報告されています。
社会的文化的背景って何?
さて、前出の文部科学省 国立教育政策研究所の総評から
『社会経済文化的背景の水準が低い生徒は得点が低い』旨の指摘がされています。
『社会経済文化的背景』とはどのようなことでしょうか?
これは「学力、学歴、職業、社会的な地位」などを分析する上で、
家庭的な背景や家庭の経済的文化的状況が大きな影響を与えているということです。
簡単に言えば
子どもの学力は
親の経済力や地域社会の環境が大きく影響をしているということです。
PISA調査でも
社会経済文化的背景は子どもの学力に影響を及ぼしていると報告しています。
日本は中学までは義務教育です。
みんなが等しく教育を受ける権利を持っています。
『社会経済文化的背景の水準が低い生徒は得点が低い』と報告されていると言うことは
公立校だけでは十分な学力を有することができない!
他の塾か習い事でお金をかけないと
一定基準の学力を有することができない状況にあると言うことになりますが
私は
指導者(先生)の質やそもそものカリキュラムに問題があるかもしれないと考えます。
『社会経済文化的背景の水準が低い生徒は得点が低い』については
『中川さおり氏「誰が医者になるのか医学部入試における選抜システムと文化的再生産について」』で以下のような例があげられています。
1980年代には
医学部に合格者を輩出している高校の8割以上が公立高校だったのが
2000年以降は83.3%が私立中高一貫校になっています。
高い学力を要求される医学部へ進学させるために
私立校へ通わせるとなれば、ある程度以上の世帯所得が必要です。
このようなデータから、
家庭の経済的な差による学力格差は
特にゆとり時代に拡大傾向にあったのではないかと推測しています。
「ゆとり世代」と比較してみたらどうだろう?
「ゆとり世代」とは、
教育指導要綱の改訂により、2002年~2011年の間に義務教育を受けた世代
(1987年4月2日生まれから2004年4月1日生まれの世代)を指します。
ゆとり教育では、週休2日制を採用し
「多種多様な経験をして人間性を豊かにするゆとりを大切にする」という目的がありました。
このシステムが10年ほどで終わっているのは
成果を出せなかったからだと考えます。
個人的には我が子たちはゆとり世代でして
ここでは割愛しますが、色々と腑に落ちないこともありました。
『ゆとり教育』は先生の力量で
素晴らしい成果も出るし
最悪なケースも招く、大変リスキーなシステムだったと思っています。
それでは、過去のPISAの読解力の結果を見てみましょう。
『ゆとり教育』導入直後の2003年、2006年の結果は散々たるものでした。
しかし、その後は生徒の学力は盛り返してきています。
これはゆとり教育の効果というよりは
子どもの教育に危機感を覚えた家庭が
ゆとり教育が導入されて以降、
学校だけに子どもの勉強を任せておけないと
外部の塾や予備校に入れたり、
私立校の受験を考えたりした結果だと考えます。
つまり、塾や習い事にお金を使える家庭の子とそうでない子の間に
かなりの学習格差が生まれているということです。
前章で述べた
『社会経済文化的背景の水準が低い生徒は得点が低い』にも一致すると思います。
『ゆとり教育』が終わった後でもPISAで成果が出ていない本当の理由
さて、2011年のゆとり教育の終焉で
その後の日本のPISA結果が盛り返したかと思いきや
表で確認してみると
盛り返すどころか、その逆になっています。
私はこの結果については大きく2つの理由があると考えます。
理由の一つは
ゆとり教育をやめたからと言って
生徒の学力が盛り返すのには
やはり数年単位のタイムラグがあるからだと考えられます。
もう一つの理由として考えられることは
2015年からコンピュータ使用のPISAテストになったからだと思います。
授業でコンピューター使用時間は日本は最低レベル
実は日本の学校授業でコンピューターを使う時間は
他国に比べてかなり少ないです。
これはICT活用調査でわかります。
日本は他国に比べて学校の授業でICT活用が少ないのです。
ICTとは
「Information and Communication Technology」の略で、意味は「情報通信技術」です。
身近な例で説明すると、
SNS上でのやり取りやメールでのコミュニケーションです。
ネット通販やチャット等、人同士のコミュニケーションを手助けする事も該当します。ITはハード・ソフト・アプリケーション・OA機器等の全体を意味するものですが
PISAにおいてのICT活用とは
「IT技術を習得・使用して学習する」という活用方法を意味します。
ICT使用のテストに変更になった2015年から
日本のPISA結果がガクンと悪くなったのは
他国に比べて学校内でICT使用の授業時間が少なく
日本の生徒がそのようなテスト形式に慣れていなかったため、
集中できなかったのではないかと考えます。
意外、学校外のICT活用時間は平均以下
日本人のスマホ依存については警鐘を鳴らしている発信もありますが
データから見ると
日本は他国に比べて学校外でのインターネット活用時間は少ないのです。
このICT活用時間の学校内・学校外での少なさが2015年以降の
PISAの結果が落ちている原因かもしれません。
データから読み解くと
日本はICT依存が少なくて健全であるとみる一面と
ICTを有効活用していないとみる一面があると考えます。
いずれにしても
ICT活用時間の少ない日本においても
学力低下につながる4時間以上の活用が
徐々に増えていることは間違いないわけです。
今後の課題としては
授業にICT利用のカリキュラムを増やして行く一方で
正しい節度ある活用をしていく教育や
時間管理も必要だと考えます。
ICT活用は4時間以内で
授業内でICT使用時間が少ない日本は
正しい使い方やプログラミングなど
子どもたちが専門的なコンピューターの使い方や
知識を学ぶ機会を与えられていないと考えます。
最近では授業でICT活用も増えているでしょうが
他国に比べたら全然足りないレベルです。
つまり、興味があっても専門的に学ぶ時間を与えられていない
また、専門的に教えられる教師も設備も整っていないと推測できます。
ICT活用については学校外で
4時間以上活用すると学力は著しく低下していきます。
その証拠となるデータが↓です。
上記のデータは
学校外のICT使用時間です。
日本もOECDもICT使用時間が4時間以上になると
学力の低下が顕著です。
またICT使用を
SNSやゲームだけに数時間費やすのと
プログラミング、調べ物、何かの情報発信など
有益なことに使用しているのでは当然学力に差が出てきます。
学校の授業で正しいICT活用方法を学んでいない日本の子どもの今後の課題として
SNSやゲームだけでなく
ICTの正しい活用方法を学校や家庭でも指導する必要があると考えます。
結局、日本の読解力は劣っている?
さて、結局、日本の読解力は衰えているのでしょうか?
下の表を参照してください。
確かに読解力の順位は落としていますが
『日本の習熟度レベル別の生徒の割合』で見てわかる通り、
めっちゃ優秀(レベル6.5.4)な子どもがいる中で
平均以下(レベル2.1)の割合が増えているのです。
これが先ほどから言っている
『社会経済文化的背景の水準が低い生徒は得点が低い』にも一致する
いわゆる教育格差による結果だと考えられます。
『日本の習熟度レベル別の生徒の割合』のデータを
ゆとり教育年代(2002-2011)と照らし合わせると合点がいくと思います。
問題の読解力ですが
子どもたちの環境は読書時間が減ってる状況です。
当然、スマホ・タブレットなどをいじる時間が4時間以上あると
読書の時間も減ります。
つまり、小さなスクリーンからしか読み取れない情報しか
理解できなくなる可能性もあるということです。
それが『5行の文が理解できない人が5割』と言うことなんでしょう。
限られた時間を自己管理できること
有効なICT活用をすること
率先して読書の時間を作ることが今後の課題なると考えます。
それにはICTと上手に付き合う必要があります。
SNSやゲームにばかりに夢中になっているのでは
読解力がなくなり学力が衰える危険性もあります。
読解力を養うには幼少期からの習慣化
読解力を向上させるのに
どのような対策ができるかは色々な意見があると思います。
今回、資料に目を通して思ったことは
15歳でPISAテストを受ける以前の
子どもの環境を整える必要があるということです。
それは学校内、学校外、家庭と
子どもを取り巻くすべての環境のことです。
それは例えば
幼児からスマホ・タブレットを与えない。
ICTの利用目的を明確にする。
子どもに約束を守らせる。
安易にゲームをSNSをやらせるのではなく
学習としてICT教育をしていく。
幼少期から子どもが日常をどのように過ごすか
親がどのように子どもの環境を整えていくか
まずは親がお膳立てをしてあげて
子どもに習慣化させることが大切だと考えます。
以上、『PISA2018』データからみる、個人的な見解を述べてみました。
参考資料
https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2018/01_point.pdf
https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2018/03_result.pdf
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